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absolute zero

DRRR!!、タイバニに首っ丈な小説ブログ

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お題に手を出してみる


お題サイト様を回っている時に面白そうなものがいくつかあったので借りてみました。
小説はこのまま見れますが、お題は目次から見れます。


最近家の中の誰かがニコ動で『KAITO バカイト』で回っている後が…
恐らく妹だ…いつの間に!





「前から聞こうと思ってたんですけど、マスターって歌苦手だって言ってましたけど、」
「ああ!?」


説明書を片手に四苦八苦しながらパソコンに向かうマスターの後ろから声を
掛けると物凄い勢いで睨まれた。折角綺麗な顔をしているのに、台無しだ。
あまりの剣幕に声を掛けた事を謝ると、「…や、俺も悪かった」とマスターがバツ
が悪そうに言った。


「調節が上手くいかねぇんだよー」
「…まさかマスター」
「何だ」


思わず出してしまった声に、マスターが怪訝そうな顔で聞き返す。あまりに苦しんで
いるようだから言ってあげた方がいいのだろうが、中々言葉が出てこない。
何故なら、言ったら怒られるのは目に見えているからだ。
それでも先を促されて、無意味に微笑んでみる。


「…その辺の調節なら、前回やったみたいに俺に言ってくれれば直接書き込みが
出来ますけど、忘れてます?」
「………え?」


俺の言葉に、マスターは左手に持ちっぱなしだった説明書を凄い速さで捲ると、
あるページでぴたりと止まって黙読し始めた。顔は隠れていて見えないが、読み
進めるに従って段々と耳が赤く染まっていく。怒っているのか恥ずかしいのか判
断が難しい。


「そういう事は…早く言えーっ!!」
「痛っ!」


読み終わったらしく、説明書を思いっきり投げ付けられた。咄嗟の対処が出来ずに
かなりの分厚さの冊子を顔面で受けてしまう。紙が何枚かなら痛くもないが、束は
痛い。
ばらけかけたそれを拾って机に置くと、次いでマスターが近くにあったらしい古語
辞典を振りかぶっていた。背筋に何か冷たい物が通り抜けた感覚がした。


「ちょ、ま、マスター…落ち着いて」
「てかそんな機能あるならパソコンの方の機能消せよ!いらないだろ!?」
「俺に言われても…お好きな人用と聞いてますが。ほら、新旧兼ね備えてるっていうか…」
「返せ俺の三時間ー!」

 










どうにか落ち着いたマスターが俺の入れたコーヒーを啜って溜息をついた。俺も
どうにか古語辞典を投げ付けられる事だけは回避出来た。
あんな物顔面に受けたら何処かが凹みそうだ。鼻とか。


「…カイト、コーヒー薄い」
「悪かったですね、初めてですしこれから練習するんです」
「…はぁ、俺の努力は一体何だったんだ」
「いいじゃないですか、一つ賢くなったでしょう」


そう言うとコーヒーの無くなったマグカップが宙を飛んでくる。ある程度予想
はしていたので当たる事もなく右手に納まった。それが気に入らなかったのか、
小さく舌打ちが聞こえた。
絶対ストレスが溜まってるか、カルシウムが足りてないんだこの人。いくら何
でも短気すぎる。


「…そうだ」
「…何」
「ストレスが溜まってるなら俺と一緒に歌いません?」
「何!?」


歌えば少しは気分も晴れるし我ながら名案だと思ったのだが、どうやらマスターは
歌いたくないらしい。今までにないくらい狼狽していて、若干顔も青ざめていた。
確かにちらりと音痴だから歌はからっきしとか本人から聞いた気がするのだが、
そこまで嫌がる必要があるのだろうか。未だ青ざめているマスターに視線を向け
ると、怯えた様に大きく肩を震わせてぶんぶんと首を横に振った。


「…そんなに嫌ですか」
「ほ、本当にダメなんだ…俺は歌だけは…っ」
「歌ってみないと分からないじゃないですか。しかも歌わないと治りませんよ、音痴は」
「……治らないのもやだー」
「だったら歌ってみましょう?」


渋々といった感じだったが頷いてくれたので、マスターの気が変わらない内に
準備をしなければならない。曲は前に読み込んだ物でいいだろうと思い、伴奏譜の
ファイルを探した。幸い、デスクトップにあったので直ぐに見つかった。
プログラムを呼び出すと、聞き慣れた前奏が流れだす。最近俺がずっと練習して
いた曲なのだが、マスターがバンドを組んでいた時のオリジナル曲だと聞いた。
それだったら歌えないという事はないだろう。
正直言って、一度はマスターの歌は聞いてみたかったので楽しみだった。


の、だが。


曲の再生を終えて沈黙したパソコンと同じように、俺もマスターも沈黙してしまった。
マスターがあれだけ嫌がるのだから多少は覚悟していた。しかし、これは予想以上、
いや予想外か。感想を求めるようにこちらを見つめるマスターに掛ける言葉が全く
見つからない。


「あ、の…ですね」
「…どーよ」
「……声は綺麗ですが、音程がメチャクチャですね」
「ホラみろ」


完璧にいじける態勢に入ったマスターを見ながら、楽器棚からキーボードを引っ張り
だす。電源が付くのを確認してから鍵盤を一つ押した。音に反応してマスターが顔を上げた。


「マスター、この音は?」
「…?ソだろ」
「じゃあこれは」
「ミ」
「これは」
「ラのシャープもしくはシのフラット」
「…合ってる」


馬鹿にするなとでも言いたそうな顔で睨むマスターを見て思わず頭を抱える。
一瞬考える様子もなく即答するという事は普通以上の音感はある。音程認識が出来て
いないのかと思ったがそうではないらしい。
調整する前の自分の歌もあまり聞けた物ではないが、それより酷い歌はある意味凄い
と思う。


マスターは更に本格的にいじけだしたのか床に体育座りで『の』の字を書き出した。
声はいい、音程が壊滅的なだけだ。直そうと思えばどうにかなる、はずだ。…多分、恐らく。
だというのにマスターは直そうともせずにただいじけているだけだ。
そんな様子を見ていたら頭の中でぷつん、という音が聞こえた気がした。
不穏な気配を感じ取ったのか、マスターが俺を見て引きつった笑顔を浮かべる。


「マスター…」
「はいぃっ!?」


怖く見えるのか、怯え気味のマスターを安心させるようににっこりと微笑んで右手で
マスターの手を握った。左手には先程使ったキーボード。


「練習しましょう」
「…はい?」
「上手く歌えるようになるまで今日一日練習しましょう。泣き言はそれから言ってください」


そう告げた途端に俺の手を振りほどこうとしたので、少し力を強くした。力で適わない
のはマスターも分かっている筈だが、抵抗は止まない。
暴れ続けるマスターを抱き締める形で手を回してから、絶対に逃がしませんから、と
低めの声で一言囁くと顔を赤らめておとなしくなった。これは使える。


「出来るだけ優しく教えますから、頑張りましょう」
「やっぱりやだー!」

 




結局、マスターの歌唱力は多少良くなった程度だった。
ある意味では才能かもしれない、と思った。




08.3.17

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