忍者ブログ

absolute zero

DRRR!!、タイバニに首っ丈な小説ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

とりっくおあとりーと!

宣言通り、ハロウィンをします!
ハロウィンなのではっちゃけてみました。
いつも以上に酷いです。注意注意!!

 

 




「――Trick or treat!


後ろから突然聞こえてきた声に、叩いていたキーボードから手を離す。あまり
振り返りたくなかったので、そのまま椅子の背凭れに体重をかけた。
台詞といい声質といい、物凄く嫌な予感しかしない。
しかし、無視をする訳にもいかないので俺は緩慢な動きで後ろを向いた。
振り向いた視線の先には、笑顔を浮かべて頭に狼耳らしきものを着けたカイト
が待っていた。
満面の笑みな辺り、やはり物凄く嫌な予感しかしない。
発された言葉と目の前に差し出された両手と頭に着いた耳の意味は愚か、そ
れをカイトが全て行っている、ということからまず理解出来ない。
脳を駆け巡る混乱と本能的な恐怖感に、俺は思わず顔をしかめてしまった。


「……は?」
「ですから『Trick or treat』ですよ。アイスも可です」
「…お前、何か浮かれた姿になってるけど理解出来てるか?」
「…その顔止めてください、マスター」


どうやら俺は余程酷い表情をしていたらしく、カイトが微かに顔をしかめた。
その間も両手は俺に伸ばされたままだった。
慌てて卓上カレンダーを手に取って確認すると、今日の日付は10月31日。
あぁ、と思わず両手を叩いて納得した。


――世間で言う、『ハロウィン』という行事の日だった。

 





    万聖節前夜祭の悲劇

 





「そういえばあったなー…そんな行事が」


俺が回転椅子の背凭れに体を預け、カレンダーを片手に持ったまま呟くと、
両手を広げて待機するカイトが無言で菓子の催促を始めた。せめて口で言
え。
椅子ごとくるりと後ろを向いてからよく見ると、狼耳の他にもちゃんと尻尾もセ
ットになっていた。格好は何時もと変わらないが、オプションが若干増えただ
けで印象が変わるものなんだなとか、現実逃避じみた考えが頭を過る。


「…ん?ハロウィンって仮装した子供が各家を回って菓子をせびる行事だったよな…」


実際のハロウィンとは万聖節の前夜祭を指していて、基本的に教会的行事
などを行うもの。
それに加えて仮装し大騒ぎをするのがハロウィンの目玉らしいが、お祭り好
きな日本にしては珍しくあまりメジャーなイベントとは言えなかった。主にこの
行事で盛り上がるのは子供の沢山いる施設と製菓会社くらいなものである。
勿論、俺自身ハロウィンをやった経験など無いので、どういう事を行うのかは
酷く曖昧だった。
それでも人伝に聞いた話を頭の中でかき集めて整理すると、何か引っ掛かる
行事と変わり果ててしまった。こんな行事では無かったようなそうだったような。
俺がそれを確認するように呟くと、静かに菓子をせびっていたカイトが何でもな
いように「そうみたいですね」とあっさりと同意をししたので俺は面食らった。
…てっきり、誤魔化しが入るかと思っていたからだ。
しかし、カイトは広げた両手で再び催促を始めた。


「……なんで子供でもないお前が俺から菓子を貰おうとしてんだ」
「ほら、俺は造られてからまだあまり年も経ってませんし。今年で三歳です
もん、ハロウィンやってみたいし」


悪びれもせずにいけしゃあしゃあと言い張ったカイトは、何を狙ったのか同時に
小首を傾げる。一緒に着けた尻尾が微かに揺れた。
俺よりもデカイ男型ボーカロイドがそんな事をしても可愛くない等、言いたいこ
とは多々あったので、俺は大きく息を吸い込んで、


「――年齢設定が二十過ぎの野郎が『ですもん』は無いだろ!」
食いつくところはそこですか
「しかも敢えて触れなかったけどなんだその耳と尻尾!折角やった小遣いで
そんなん買って!」
「可愛いでしょう?商品名が『オオカ耳』っていうんですよ。あ、コレと少し違い
ますがマスターの分もありますよー」
なんで俺の分まで買ったの!?


息切れしそうになりながら叫び続けた俺を見て、カイトが眉をしかめる。


「マスター…あまり大声を上げると喉にもよくないですよ?」
「誰の所為だと思ってんだ!!」
「で、ハロウィンの話ですが」
話を戻すな!!


流石に叫び過ぎたのか、そこまで律儀にツッコミをいれた段階で大きく咳き込
んでしまった。言われた通り、喉が痛い。
激しく咳をしていたら、カイトが然り気無く俺の背中を擦ってくれた。
ハロウィンなんてやらないとはっきり言おうと思っていたというのに、こういう時
は優しかったりするから断れないのだ。
普段はからかわれているというのを感じるのもこういう時だが。
深呼吸をしながら息を整えているうちに咳が治まってくる。
情けない気分になっていた俺は、深呼吸ついでに深く溜め息をついた。


「…仕方ないから一寸待ってろ」


今まで背中を擦ってくれた手を止めて、俺は隣の棚の引き出しを漁った。その
様子をカイトが不思議そうな顔のまま、手を戻す。
言われるままに菓子を渡すのは何だか腑に落ちないが、それでも断れない辺り、
俺もカイトに甘いのだと思う。
しかし基本的に間食をしない俺が菓子類などから離れて久しいのだが、この家
にそんな物があるとしたら自室の棚くらいなものだ。秋真っ只中の今、アイスな
んて買い置きがあるわけもなかったし。
少し前には貰い物の饅頭が入っていたのに、とそう遠くない記憶が頭を過った。
…あまり食欲が無かった日に昼食代わりに食べてしまった為、既に無くなって
いるが。
確か、幾つか生徒からの貰い物である(喉)飴も入っていた気がしたが…どう
やら食べ尽くしたらしく、既に無くなっていた。
探し始めたはいいが、元々あった菓子を食べてしまった自分の記憶が次から
次から溢れ出す。何故その時に残しておかなかったのか、と後悔の念も一緒
に溢れ出した。
冷や汗をかいた状態で俺は再びカイトに向き合い、その手に自らの手をそっと
重ねる。俺はそのまま持っていた細長い箱を渡して手を離した。
残ったカイトの手の上には、今渡した酢昆布が乗っている。


沈黙。

カイトのこちらを見つめる視線が妙に痛い。


「……マスター、お菓子が無いならそう言えばいいんですよ?催促しといてな
んですが別に無理しなくても」
「酢昆布やったじゃん!あとやれるのはスルメだけだぞ!?」
「確かに戴きましたが、流石にコレは納得出来ないので認められません!スル
メも却下です!」


即座に返された酢昆布を引き出しに再び仕舞いながらやはり駄目だったか、と
溜め息をついた。折角あげようと思っても肝心の菓子が無ければどうにもならな
い。
数日前の自分に心の中で文句を言いながら顔を上げると、今日見た中で一番
良くない性質の笑みを浮かべたカイトがこちらを静かに見ていた。めちゃめちゃ
楽しそうで、邪悪さを感じさせる笑みだ。
それを見た途端、俺の中の警鐘がけたたましい音を立てて鳴り響く。
向けられたのは笑顔だというのに、どこはかとなく黒い。危険度メーターなんても
のが存在していたなら、値を示す針は完璧に振り切っていたことだろう。


「Trick or treatですからお菓子が無ければ悪戯、ですよね?」
「おま…っ!もしかしてこっちがやりたくて…!?」


本能的危機察知の原因発覚。
つい癖で反論してしまったが、そんな言葉でカイトが止まってくれないのはよく理
解していた。ざぁっと顔から血の気が引いていくのを感じる。
俺とカイトの距離は元々近かったが、俺が椅子から立ち上がって逃げの体勢に
入ったことで若干広がった。…逃げる方向を誤ったお陰で既に後ろが壁だったけ
ど!


「や、やっぱり酢昆布を菓子と認めろ!否、認めて下さい!」
「こんなの実際に子供に渡してたら大顰蹙ですよ?丁寧に言い直しても却下しますね」
今ならスルメ付けるぞ!?
勿論却下です!


そんな事を言っている間にもカイトは俺にどんどん近付いてくる。自分自身、何
を口走っているのか分からなくなってきたが、時間稼ぎくらいにはなると思う。否、
そう信じてる!!

しかし、現実はそう上手くもいかず、カイトと俺の距離は無情にもほんの僅かま
で詰められた。カイトの酷く整った顔が俺を間近から見つめている。
マスター動かないで、と普段使わないだろう低めの声で耳元に囁かれて体が
びくり、と震えた。俺はどうしても耳元で囁かれる事に弱いらしく、思わず抵抗の
手を緩めてしまった。その手を掴まれ、壁に縫い付けられてしまう。
手を伸ばされて反動的に目を瞑った。俺よりも大きな手がするりと頬を撫で、
頭にも手が触れる。もう半泣き状態だ。


が、それ以上何かされる気配も無く、不思議に思って恐る恐る目を開けた。



――同時に気が抜けるような、軽やかな電子音が鳴り響いた。


「……あ?」
「マスター、もう動いても結構ですよ」
「え、あ、うん…」


驚く程あっさりと俺を解放したカイトが買ってやった携帯で何やら操作を続けて
いた。一体何をしたのか検討も付かず、ただ困惑していると、操作を終えたらし
いカイトが携帯の画面を俺が見えるように向けてくれる。
何事かとその画面を覗き込んで目に飛び込んできた、トンでもないものに対し
て大きく悲鳴を上げてしまった。


…携帯の画面には、何かの耳を着けてカメラに視線を向けていた自分の姿が
ありありと映し出されていたのだ。恥ずかしくて一瞬見て視線を逸らしたが。
だが、急いで撮っていた割にはピンぼけもせず、一瞬見ただけでも分かるくら
い綺麗に写っている。


「後は待ち受け設定を当分変えずにいたら悪戯完了です」
「こ、こんなん着けた記憶俺は無…ってほぎゃーーー!!?


慌てて自分の頭に手を当てると、カイトの着けている物と似た動物耳が俺の頭
にも未だに着いていた。しかもよく触ってみると、僅かにカイトの物と形が違う、
気がする。
確認すべく、先程の写真が不本意ながら待ち受けになってるであろう携帯を強
奪…しようとしたのだが、危機を察知したのか俺の手の届かない高くまで避難さ
せられてしまった。こういう時程、そんなに無い筈の身長の差を感じさせられる。
届きそうで絶対届かない辺りがまたムカつく!


「か、カイト!これ、俺の頭に何がのってんだ!」
「マスターのはネコミミですよ。よく似合ってます」
「ね…っ!ねーこーみーみー!?」
「商品名は『本物みたーい!なりきりネコミミバンド』っていうんです。同じく尻尾付き」
「あ、アホみたいな商品名…!!」


がっくりと脱力した俺を見ながら、カイトは爽やかな笑顔で呟いた。


ハロウィンって楽しい行事ですね!

 



その後、今の台詞でキレて写真を消そうと躍起になる俺とその様子を楽しむカイ
トによる、携帯争奪戦が一晩に渡り繰り広げられた。結局携帯は奪えず仕舞いだ
ったが。


来年からは忘れずに菓子を用意しておこう。
俺は今日の出来事から、そう固く心に誓ったのだった。




08.10.31
 

拍手

PR

comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

trackback

この記事にトラックバックする:

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]