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absolute zero

DRRR!!、タイバニに首っ丈な小説ブログ

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あるぇー?カイトが大暴走…


初めはこんな話じゃなかった…っ!おかしいな、どこで間違えたんだろう。
もっと、ただマスターが音痴でどうのっていう話のはずが。
…途中で収集がつかなくなりました。

なんだか微妙に前回とリンクしてます。






「――よし、入力…っと」
「完成しました?」


殆ど半日掛かりでパソコンでの入力を終えて保存をすると同時に後ろからカイ
トが画面を覗き込んできた。カイトと俺の顔の間がほんの数センチしか無い事
に思わずひぎゃあ、と悲鳴のような声を上げてしまう。こんなに距離を詰められ
たのは初めてかもしれないが、不意打ちは心臓に悪い。


「何ですかマスター、情けない声上げて」


カイトは距離よりも俺の悲鳴に驚いたらしく、片手で右耳を押さえながら少し離
れた。確かに情けない声が出たとは自分でも思ったが、仮にも主人に向ける言
葉ではない気がする。最近、特にカイトが俺に対して辛辣だ。慣れてきたから
なのかもしれないが、嬉しくは全く無い。
睨んでみたが、カイトはパソコン画面を食い入るように見ているので気が付いて
くれなかった。


「マスター、データの読み込みをしたいので端子を…」
「……待ってろ」


細かいコード類を纏めておく引き出しからUSB端子を取出してぶっきらぼうに
放り投げてやると、カイトは「何を拗ねてるんですか」とか不思議そうに言いなが
ら端子を落とす事無く受け取った。断じて拗ねている訳ではない。
受け取ったUSB端子を早速パソコンに繋いで、コードの端を右手で摘む。その
ままの格好でカイトが目を閉じると、勝手にパソコン内のフォルダが呼び出され
て開かれた。まるで怪奇現象みたいに見えて怖い。
伴奏譜、メロディ、歌詞などのデータが次々開いてはダウンロードを終えたという
メッセージが表示されていく。全てダウンロードし終えたのか、カイトが目を開けた。


「終わったのか?」
「はい、記録しました」


USB端子を外して渡される。それを再び引き出しにしまうと、既にそわそわして
いるカイトが口を開いた。


「マスター、歌っても…いいですか?」
「勿論、いいに決まってるだろ」
「有難うございます!」


俺の言葉に礼を述べてから、早速パソコンの伴奏再生と共に歌詞を紡ぎだす。
まだ調整もしていないから少したどたどしいが、伸びやかで綺麗な声が部屋に
響いた。
曲は、昔のバンドで演奏した中で、比較的おとなしめの物を選んだ。既存の
曲でもよかったのだが、楽譜も無くメロディしか打ち込めなくなってしまうので止
めたのだ。
何度も演奏して、頭に残っている曲だが、歌い手が変わるだけでこれほど違うと
は思わなかった。


その声と、何よりカイトの表情に思わず見惚れた。


歌うカイトの表情はとても嬉しそうで、こんな表情は普段、滅多に見せてくれない。
やはり歌う目的で生まれたのだから歌いたいのだろうなと思った。とはいえ今ま
で時間が無く、歌わせてあげたられたのは今回が初めてなのだ。


「…カイトはやっぱり、沢山歌える方が楽しいか?」
「歌は俺の存在理由ですからね、やはり歌えるのは嬉しいですよ」
「そっか…」


何度もメロディを繰り返して歌っていたカイトが歌うのを止めてこちらを見た。


「どうですか、マスター?何処か変な所があったら指摘をお願いします」
「へ、あぁ…」


一端考えるのを止めて、カイトの歌に対して全体の繋ぎなどの指摘をして
いたらかなりの時間が過ぎていた。カイトも満足したのか「マスター、今日
はこれくらいにしましょう」といつになく笑顔で言ってくれた。

 











何か、物が焦げた匂いに気が付いて我に返る。見ると、夕食用の野菜が見る
も無残な姿に変わっていた。慌ててコンロの火を止めた。下手をするとボヤ
騒ぎなんていう洒落にならない展開になってしまう。
黒く変色した野菜を見つめるが溜息しか出てこない。自分でも集中出来てい
ないのは分かっている。だけど、どうしても今日のカイトの嬉しそうな表情が頭
から離れないのだ。


今日は、とカイトは言ったが今度はいつ時間が取れるか分からない。早めに
帰ってきた日なら歌わせてあげられるが、疲れてしまってそれどころではない
日もあるだろう。
しかも機材不足ではちゃんと歌わせられない。更に言うなら楽器をやっていた
とは言っても歌やDTMに関してはからっきしだ。


今はまだ楽しんでくれているのかもしれないが、その内に愛想を尽かされてし
まうかもしれない。家に来たばかりの頃みたいに嫌われるのかもしれない。
俺は、ただその時が来るのが恐ろしかった。だったら今のうちに俺よりも詳しい
友人にでも譲った方がいい。
何よりカイトも、思う存分歌えない環境よりも歌える場所の方がいいだろう。


「…歌わせてあげられないんじゃアイツも嫌だよな…」
「何の話ですか」
「何って、カイトは俺のとこじゃなくって誰かもっと詳しい人の所に行かせた方が
いいんじゃないかって、いう……あれ?」


問われて思わず答えてしまったが、これは誰だ。ぐるり、と首を捻って後ろを
見ると勿論カイト一人しかいない訳で。


さっきの言葉を発した途端、カイトの表情が氷の様に冷たくなったように見えた。
まるで家に来たばかりの頃みたいだ、なんて思った。
表情が怖い。殆ど無表情に近いが、威圧感だけは半端ない。


「か、カイト…」
「……そんな事、考えていたんですか」


冷たい視線に、縫い付けられ動けなくなってしまう。カイトはそのままこちらに
近づいたかと思うと、おもむろに俺の頬に手を添えた。
人より冷たい指に驚いて、びくりと肩を震わせてしまう。


「俺は人間なんて嫌いでした。嫌だと言っているのに俺の意見なんか聞かないで
好き勝手に扱って、厭きたら捨てるんですから」


カイトの言葉に胸が締め付けられる。
別に捨てたい訳ではない、と声を出そうとしたが出なかった。


「あんなに優しくしてくれたあなたなら好きになれると思っていたのに、
こんな風に俺が触れる事が出来る人もあなたしかいないのに、
あなたも俺を捨てるんですか」
「ち、違……っ」
「何が違うんですか、俺がいらなくなったから別の人間に渡してしまおうと思ったのでしょう?」
「違うっ!」


俺の叫ぶような声に若干怯んだカイトの目を見据える。動揺して揺れる
青の瞳に写された自分も泣きそうになっていた。…情けない。


「俺は楽器は弾けても作曲が出来るわけではないしDTMなんてやったこともないから
ど素人だし歌については詳しくないどころか壊滅的な音痴だし!」


泣きださないようにと一気に巻くし立てると、カイトが呆気に取られて言葉を
失っている。言いたい事があるのか、絞りだすようにマスター、と呟かれたが
ここで止まったら絶対に泣いてしまう。


「このままじゃ嫌われるって思ったし、お前が凄く楽しそうに歌うから、
俺の所にいるよりももっと詳しい人の所に行った方がいいんじゃ、ないかって…っ!」
「マスター…っ」
「っふ…ちくしょ、…うぅ…!」


視界がじわりと滲む。よく見えないが、カイトが慌てふためいているのは雰囲気
で分かった。困ったような声が俺を呼んだからだ。
普段あまり泣かない所為か、泣きだすと中々止まらない。どうすればいいのか
思案しているカイトには悪いがとにかく泣いた。
不意に、目尻に何か柔らかい物が当たる。目を開けると、カイトの顔が異様に
近かった。
カイトは安心したのか優しい笑みを浮かべた。


「泣き止みましたね、マスター」
「…あれ、本当だ止まってる…」


濡れた頬を拭おうと手の甲で擦ったら「乱暴に擦ると傷つきますよ」と止められる。
カイトが何時の間に持ってきたのか分からないがタオルで拭ってくれた。これ
くらい自分で出来ると主張したが、「俺にやらせてください」の一点張りだ。


「…すいませんでした」
「え?」


俺の顔を拭ってくれていたカイトが突然ぽつりと謝した。


「泣かせてしまった事については謝ります」
「……については?」
「俺の意見を聞かない云々は訂正するつもりはありませんので」


どういう事、と呟けばカイトはその長い腕を俺の背に回してそのまま抱き締め
られる。やはり体格の差か、俺の体はすっぽりと納まってしまった。
…デジャブだ、前にもあったこんな事。
抱き締めている本人は全く気にした様子も無く、俺を抱き締めたまま、耳元で
言葉を紡いだ。


「歌えなくてもいいんです、俺はマスターと一緒にいたい」
「…俺と?」
「俺はマスターを嫌いになんてなりませんから、俺もマスターの事、好きでいてもいいですか?」


まるで告白みたいな事を言われて、また泣きそうになる。喋れば泣いてしまう
のは分かっていたので何度も頷くと、カイトは「有難う、マスター」とだけ言って
更にきつく抱き締めた。
腕に込められた力のあまりの強さに俺が痛い、と呻くと慌てて腕を離してまた
謝る。その様子が何だか無性に可笑しくて吹き出すと、カイトもつられて笑った。




08.3.16

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