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absolute zero

DRRR!!、タイバニに首っ丈な小説ブログ

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受験が終わったぜよ!

終わりはしましたが、結果はまだです。
暇になったからか、携帯いじっていたら小説が完成していたという…
…まだ途中ですが。

 





何かを言おうとしていたカイトがそのまま倒れた――それが端から見た俺の認識だった。



倒れたまま反応が無くなったカイトを慌てて抱え起こすとどうやらスリープのような状態に
陥っているだけみたいだった。
取り敢えず何時までも床に転がりっぱなしなのは気分的にも嫌なので、必死になって抱き
上げて壁ぎわにもたれかからせる。…体格の差できちんと持ち上がらず、若干引きずった
事に申し訳ない気がしたが、言わなければバレないので無かったことにした。
つい先程まではカイトの様子も何時も通りだった。どちらかと言えば俺の方が最近、夢の
所為か恥ずかしくてカイトを直視出来なくて困っていた所だ。
…そんな話はどうでもいいとして。
あまりに突然過ぎて混乱する頭を押さえながら、まずはボーカロイドの取り扱い説明書を
棚から引っ張りだす。説明書、と言ってもネットからデータを拾って印刷したコピー紙の束
だが…
紙の束を斜め読みの状態で素早く捲っていたが、今のカイトの状況とよく似た症例のペー
ジを見つけて指を止めた。


「えーっと、トラブルQアンドA、症例14『ボーカロイドが歌を歌えなくなった場合』。若干違う
気がするが取り敢えず見るか…」


ぴったりと言える症例ではないが、状況としては間違っていない。説明書の該当欄を指で
辿りながら文字に目を通した。
『本体の損傷』『エネルギーの消耗』『酷使による一時的な機能停止』等、見れば見る程不
安になる文字の羅列に恐怖を覚えながらも読み続ける。某医学番組みたく、どの原因も心
当たりがあるような気がしてきた。
大体どの例もメンテナンスに出せだのきちんと充電させる時間を取れだの休息を与えろだ
のと基本的な対処法が表記されている。やはり何処かのプログラムが何かしらの不具合を
起こしているのだろうか。
ちゃんと睡眠も十分にさせていた筈なんだが、と頭を抱え始めた時、最後の項目にあった
『どうしても問題が解決しない場合』の対処法が目に入ってしまい、俺は思わず息を飲んだ。


「…対処法、『ボーカロイドの初期化』」


アンドロイド型の初期化。
それはソフトウェア型のアンインストールにあたる機能。全てのデータを一度造られた状態
に戻す為の特殊操作。


初期化では別にカイトが消えるわけでは無い。消えるのは今までの記憶だけ。
しかし、初めて会った時もそうだったがカイトは初期化を酷く嫌っていた。理由も聞いてない
が、兎に角嫌だと拒絶したのをよく覚えている。


最悪の場合の対処法として表記されているだけだ。実際にこの対処法を実行せざるを得な
かった人なんて今までいなかっただろう――あくまで俺個人の希望的観測なのだが。


「カイト…」


小さく、だがしっかりとした口調で名前を呟く。
名前を呼べば何時だって答えてくれたボーカロイドの彼は、初めて俺の言葉に何も答えて
くれなかった。

 




…という昨日の出来事の夢を見て、気が付いたら朝だった。
夜中のパソコンに向かっていて、途中でカイトが来た記憶はあるが、いつの間にか眠ってい
たらしい。なのに布団で寝ていた所を見ると、どうやらカイトが運んでくれたようだ。
こちらがアイツを心配させるような事をしてどうする、と自己嫌悪に陥る。しかも非常事態な
のに寝れてしまった自分の神経を疑い、益々落ち込んだ。


何時までも落ち込んだって仕様がないので何時も通りの時間に俺が居間に向かうと、何時
も通りの姿をしたカイトが台所に居るのが見えた。やはり何時も通りに朝食を作っている途
中のようで、ふわりと味噌汁の良い香りが鼻腔を通り抜ける。
普段ならその感覚に対して何かしら思ったことを口に出すのだが、あんな事が起こって、し
かも解決していない所為からか俺は素直に口を開くことを止めた――いや、正確には出来
なかった、かもしれない。
お早う、と声を掛けると調理の手を止めて振り向いたカイトが何時ものようににこりと微笑ん
だ。
やはり声は出ないようで、それだけだったが。
その時のカイトの表情が驚く程穏やかで不安も何も感じさせないものだったことに、逆に俺
の胸に渦巻く不安を増大していくような気がしてならなかった。

 



その後のカイトの行動は、良くも悪くも『何時も通り』。
食事をして、食器を片付け、洗濯機を回し、仕事に向かう俺を見送る。
唯一つ違うのは、声が出ないということだけ。


それこそ何時も通り持たされた弁当を頬張りながら、深く溜め息をつく。
どう考えても無理をしているとしか思えない。
元々取り乱したりする奴ではなかったが、気にした様子も無く何時も通りに振る舞おうとする
のは心配されるのが嫌だからだろう。…そんなに俺は頼り無いのだろうか。
しかし、昨日の段階では今一つ有力な情報も得られず仕舞いなので頼り無いことには変わ
り無いかもしれない。不甲斐ない結果に俺は項垂れた。
このまま一生カイトの声が戻らなかったら――


不穏な考えを打ち消すように勢いよく頭を振った俺は、それ以上余計な事を考えないように
両の頬を手のひらで打った。そんな事を考えている暇があるなら対処を考えた方が有意義だ。
例えば――誰か同じ状況に陥っても不思議ではないような人に相談をする、とか…
其処まで考えて、はたと気が付いた。
この条件に丸々当てはまる奴。身近に居たではないか、アンドロイドタイプのボーカロイド持ちが!
何時かの電話による会話は俺の中では一生封じ込めておきたかったが、この会話のお陰で高
校時代の友人、西月かずまの家にボーカロイドがいるのだと知っていた。
慌てて残りの弁当を口に詰めながら、ほんの僅かだが確かな期待を胸に俺は携帯を取り出す。


しかし、携帯に掛けて何コールもしない内に留守電に繋げられた。自分で吹き込んだのか、か
ずまと全く同じ声色の留守電案内を暫く聞いていたが途中でイラッときたのでぶったぎった。何
が『メッセージの確認は一週間後くらいとなるけどいいよな?』だ。留守電機能の意味が全くな
い。


「…かずまのヤロー、そういや携帯は常にマナー状態とかなんとか…」


友人の、持っている意味のない携帯使用法に溜め息をついた俺は今度は家電に繋いだ。此
方の職業上、昼間に電話をする事など初めてなので、殆ど駄目元に近いが今は少しでも早く
治療法を見つけてやりたかったのだ。
1コール、2コールと鳴り続ける呼び出し音に段々と不安を覚え始める。…俺は常々思ってい
たが、どうして電話の呼び出し音や保留音はこう不安を掻き立てるのだろうか。
延々と続くかのように思われた呼び出し音が突然止んだ。


「繋がった!もしもし、かずまか!?」


つい何時もの勢いで問い掛けたが、電話に出た相手は何か動揺しているのか返事が返って
こなかった。
まるで、言葉を何と返せばいいのか悩んでいるような雰囲気が伝わってくる。
怪訝に思いながらも再びもしもし、と問い掛けると漸く電話の相手が話し始めた。


『――西月、ですけど…どちら様でしょうか?』


聞こえてきたのは友人の声とは似ても似つかない可愛らしい少女の声。
間違えたかと思って咄嗟に電話を切りそうになったが、電話帳から検索している上、相手が
西月と名乗っているのだから間違えている筈がないことに気が付いた。


「あの…神崎、ですけど」
『カンザキ…あ、マスターのお友だちの方ですね!』


マスター、というカイトに呼ばれ慣れた単語を聞いてもう一つ気が付いた。
この少女の声。聞いたことがあるような、と思っていたがあって当然である。
何故なら、動画で聞いたものと――ボーカロイドで一番有名な初音ミクと酷似していたのだ
から。


「君が初音、ミク?」
『はい!私もあなたの事はマスターからよく聞いています。れんれんさん、ですよね』


邪気の全く無い声でミクが俺の質問に余計な一言を付けて答えてくれた。思わず息を詰まら
せてしまった。
俺にとっての忌まわしき呼び名を呼んだ彼女に悪気がないのは解っている。悪いのは嫌だと
言っても改める気のないかずま一人だ。覚えてろよあのチビ、今度会ったら嫌だと言っても牛
乳を飲ませてやる!
そんな俺の考えなど露知らず、ミクは本当に申し訳なさそうにごめんなさい、と俺に告げた。
思考が若干トリップしていた俺はその声で我に返った。


「ごめんなさいって…何が?」
『マスター、今は仕事に出てるんです。だからマスターに用があるのだったら携帯か、帰って
きてから掛け直すかして――』
「そっか、じゃあ掛け直……否、一寸待ってくれ!」


携帯に繋がらないのなら帰ってくるまで待とうかとも思ったが、よく考えれば俺が詳しく知りた
いのはボーカロイドについて。ならば当人に聞けば寧ろ友人に尋ねるよりも明確な答えが聞
けるかもしれない。聞いてみなければこの仮説が外れているのかも確認出来ない。案ずるよ
り産むが易し、だ。
急に黙り込んだ俺が心配になったのか、不安そうに大丈夫、と問い掛けるミクの声を聞いて俺
は顔を上げる。


「ミク、今時間あるかな!君に尋ねたいことがあるんだけど――」

 


――嬉々とした俺の声と同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。時間がないのは
こっちだったとは。
あまりのタイミングの悪さに俺は深く溜め息をついた。



08.11.24

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